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CWYEメンバーの時計製作。Doi「文字盤製作記」

皆さんこんにちは。今回この記事を書かせていただく、CWYEメンバーの「Doi」です。私がCWYEの存在を知ってから半年以上が経過し、魅力溢れる時計や素晴らしいメンバーの方々に感化されながら、今日まで過ごしてまいりました。今年度の夏には実際にメンバーの方々にお会いするべく東京へ遠征し、関東オフ会に参加した事は記憶に新しく、私自身、これからも積極的に活動に取り組んでいこうと思う次第であります。
さて、今回の記事では私が行っている腕時計の文字盤製作について、詳しく記載していきたいと思います。それでは早速、本文に入りたいと思います。

 

私が「メティエ・ダール」という言葉を知ったのは、時計に興味を持って以降のことです。フランス語で「職人の手仕事によって生み出される、技術や芸術」という意味を持つ言葉です。この言葉で検索をかけると、様々な美しい装飾が施された時計を見ることができます。
現代において、文字盤に様々な装飾を施す時計ブランドや宝飾メゾンは少なくありません。各ブランドによる作品の製作は、はるか昔に開発された伝統的な技法を継承していくという、大切な役割も担っています。
その技法は実に様々で、エナメルや彫金、ギヨシェ、ジェムセッティングなどの伝統的な技法は数多くの作品に採用されています。また、LEDによるライトアップアニメーションや、複雑なオートマタを組み込むなど、新たに開発された技法も製作技術の向上によって増加する傾向にあります。
このような文字盤装飾を施した作品の数々は、類稀なる技能を持つ数少ない職人による手仕事によって生み出されます。それ故に個々の作品は大変希少価値の高いものとなります。
ここで、パテック・フィリップの「レア・ハンドクラフト」を例に見ます。このコレクションは現行コレクションには属さず、カタログにも掲載されていません。年間数本〜数十本のみの生産で各デザインごとに1本という、半端ではない希少価値を誇るユニークピースと言えます。全ての時計を1度にお目にかかれるのは、バーゼルワールドなどの新作時計発表イベント開催時のみでしょう。

 

私はこのような、メカニズムの美しさとは違った魅力のある文字盤装飾の世界に惹かれて、いつか自分の手で美しい作品を作り上げてみたいと思うようになりました。
もともと興味のあった美術や芸術の世界。製作技法などについて調べていくうちに理解を深め、自ら実際に製作するに至りました。それでは早速、私が製作した文字盤を紹介したいと思います。

 

これが私の処女作「Peacock」です。
まずは比較的簡単な方法で始めようと思い、ホームセンターなどで購入できる安い腕時計をベースとして、アクリル塗料を使用し細い筆でインドクジャクのモチーフを描いたものです。
塗料と薄め液との割合によって、塗料の伸びや発色の良さなど大幅に変わったり、筆の太さによって描く線にも影響します。ただ塗料で絵を描くだけでも、これだけの苦労や試行錯誤が必要であると、この作業を通じて強く感じました。
また、目の部分の塗料を盛って孔雀の表情を生き生きとさせたり、文字盤の左下に自分のイニシャルを入れたりするなど、少し自分らしさと工夫を加えてみました。
しかし、ルーペで直接文字盤を見られると恥ずかしいのは、自分の腕がまだまだだということですね…。

 

第2作品目は「Makie」です。
装飾を施した文字盤の中には、日本の伝統的な装飾技法である漆塗を使用して、蒔絵や螺鈿で作られた作品が少なからず存在します。私はこの日本の伝統技法に着目し、日本人ならではの作品を作ってみたいと思い、この文字盤の制作に至りました。
本作品には蒔絵という技法を使用しています。本来の蒔絵は、乾いた漆の上にまだ乾いていない漆を様々な文様に沿って塗り、その上から金粉を蒔いて絵や文様を美しく魅せるというものです。しかし今回は本漆は使用せず、漆のような外観と質感を表現できるウレタン漆という合成塗料を使用しています。
また、細い線を綺麗に表現するため、肌理の細かい金粉を使用しています。
今作のデザインのテーマは日本の原風景です。里山の麓にある竹林と、そこから流れ出る小川の側に茂る葦や芒…なんだか昔を思い出してしまいます。
今回初めて蒔絵という技法を経験し、改めて日本の伝統的な技法の素晴らしさを知りました。この奥深い世界を経験を通して学ぶのは、私にとって幸せな事だと感じました。

 

第3作品目は「Raden」です。
この文字盤に使用した「螺鈿」は、奈良時代に中国(唐)から輸入された装飾技法です。
夜光貝や白蝶貝を薄く加工したものを、漆を塗って固めた表面や彫刻された部分などにはめ込んで、漆を塗り重ねては表面を削る作業を繰り返し、その貝によって文様や絵を描くという特殊な方法で製作を行います。
この文字盤に使用した貝は青貝(カワシンジュガイ)という、その名の通り青い光を放つ美しい種類のものです。それを0.7mm幅にカットして縦ストライプの無機質な模様に仕上げました。また、前回同様ウレタン漆を用い、本漆と似た質感を再現しました。
この螺鈿という技法は貝の持つ輝きを最大限に引き立たせることが出来ます。というのも、表面を数回にわたって研磨していくうちに、研磨する前は白みがかったあまり綺麗ではない部分も、鮮やかな光を放つようになるのです。
また、この貝の特徴でもあるのが光の色や反射角を変えると、全く違う色に見えます。腕に着けている状態で手首を動かすと、色とりどりの光を反射します。

ここで少し余談です。希少性が故にあまり知られていませんが、蒔絵や螺鈿などの伝統技法を採用した作品は、意外にも数多く存在します。日本が誇る高級時計ブランド・クレドールやカンパノラはもちろん、ショパールやヴァン・クリーフ&アーペル、ヴァシュロン・コンスタンタン、ハリー・ウィンストンなどの著名な海外ブランドの作品に採用される事も多くあります。驚くべきことに、その文字盤の製作は日本人の漆芸や漆器などの職人に依頼され、類稀なる技術を継承する熟練の腕によって完成されているのです。
近年、このような伝統技法を施した腕時計が、特に海外で注目されるようになったと個人的に感じています。好例として、今年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG2017)の“Artistic Crafts Prize”(工芸賞の意)を受賞したのはヴティライネンの”Aki-No-Kure”(秋の暮れ)という作品でした。この作品は日本の雲龍庵という漆芸工房とコラボレーションし、蒔絵や螺鈿工芸などを駆使して製作されているのです。
私は時計のイベントで1度だけショパールのL.U.C URUSHI という作品を手にとったことがありますが、それはそれは美しいものでした…

 

続いて第4作品目は「Kingfisher Mosaic」です。
この作品を製作する初めのテーマとなったのが、これまでの文字盤で使用した螺鈿と蒔絵の2つの技法を用いて、それを1つの文字盤にまとめるというものでした。
この文字盤をデザインするにあたって最も重要視したのは、いかに描くモチーフを綺麗に魅せるか、ということです。螺鈿細工は使用した青貝の性質上、貝片をより細かくするほど鮮やかに、そしてより綺麗に見えるのです。
この性質を利用してモチーフを描く方法はモザイク画が適切であると考えました。一辺が約0.6〜0.7mmの正方形にカットした貝片を大量に用意し、更にそれを数色に色分けをしました。というのも、青貝という名称を持ちながらも、この貝の持つ色は一色だけではありません。鮮やかな青色はもちろん、紫色や緑色、桃色、水色、など、光源や見る角度の違いによって様々な色に変化します。
今作でモチーフとした翡翠は「河原の宝石」とも称され、鮮やかな色が特徴の美しい鳥です。そこでこの貝の性質を使い、翡翠の美しさを表現するのが相応しいと考えたのです。
また一方で、翡翠の輪郭や羽並を表現するために用いた技法は蒔絵です。極めて細い線で描く必要があったため、今回筆を新調しました。この線は主張し過ぎず、丁度良い太さであることが要求されます。そのため何度も試し書きをしてベストな太さを見つけました。
こうして完成した文字盤を見てみると、面白い事を発見しました。電球色の光を当てると蒔絵が主張し、また、蛍光灯の光を当てると螺鈿が主張し、それぞれで全く違う表情を魅せるのです。

 

最後になりますが、5作品目の「Zeus Eggshell Mosaic」です。
装飾とは、必ずしもその製作に使用する材料や素材自体が美しいものとは限りません。しかし、ある形で手を加えることによって、その素材は美しい作品へと姿を変えることがあります。
この文字盤のモチーフを描くために使用した素材は、うずらの卵の殻です。普段なら、卵とは中身をいただく食材であり、残った殻の部分はすぐに捨ててしまうでしょう。その殻を画材に用いるという発想は、とてもユニークなものだと思います。この技法はエッグシェルモザイクといい、アジアの伝統芸術工芸として現代に引き継がれています。
このエッグシェルモザイクを初めて文字盤に採用したのは、ジャケ・ドローの「プティ・ウール・ミニット エレファント モザイク」という2015年に発表された作品で、(実機を見たことはありませんが)その繊細さと奥深さに衝撃を受けました。私はこの手法に挑戦してみたいと思い、今作の製作に至りました。モチーフとなるのは、宇宙の瞳を持つ盲目のフクロウ「ゼウス」です。
さて、エッグシェルモザイク技法での文字盤製作は、想像以上に大変な作業が待ち受けていました。大まかに工程を説明すると、うずらの卵を美味しくいただいた後、殻を洗浄し乾燥させます。次に、殻表面の微妙な濃淡に違いを見て6色に色分けをし、指の腹を押し当てて殻を粉々になる少し手前まですり潰します。そして、殻のかけらを一片ずつ絵柄を見ながら適当な場所に貼り付けて、モザイク画を描いていくのです。想像しただけで、骨の折れる作業だということはお分かりいただけると思います…。(毎日・一日中ではありませんでしたが)このモチーフを描くのみで約3週間を要しました。
また、今作では梟の瞳にもこだわって製作しています。前述しましたが、モチーフとなったのは宇宙の瞳を持つゼウスという梟です。この宇宙の輝きを表現するためにある工夫を加えました。
初めに黒色のウレタン漆を塗り、目の形にカットした青貝を張り付けます。次に無色のニスを塗り重ね、そこに星空を再現するために殻の粉末を少量混ぜたニスを加えます。最後に無色のウレタン漆を3層に塗り重ねてレンズ状にします。よって写真のような、生き生きとした瞳が完成しました。
このような大変な作業を経て、先日ようやく完成を迎えました。腕に着けてみて梟の瞳を見つめると、今までの苦労が報われるような気がしました。

 

いかがでしたでしょうか。
メカニズムの美しさに惹かれて興味を持った時計の世界の中で、新たに発見したのは「文字盤装飾の世界」でした。その奥深い世界を掘り進めていくと、更に驚きの発見があるでしょう。
そして、私が製作した文字盤を1つでもいいと思っていただけたら、それ以上の喜びはありません。
現在、新たな手法を用いた文字盤を製作中ですので、完成次第記事にしたいと思っています。
最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。

 

Doi

 

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